airweave コラボレーション

睡眠コラム

スポーツの秋に学ぶ、運動と睡眠の深い関係──内田直教授の睡眠コラム

10月に入り、秋も本番。
高く澄んだ空に涼しい風が吹き抜けるこの季節は、体を動かすのにぴったりのシーズンですね。新たにスポーツを始めようとしている方も、普段から体を動かす習慣がある方も、ぜひ意識していただきたいのが“眠りの力”です。

今回は、睡眠研究の専門家である医学博士の内田直先生に、運動と睡眠の深い関係について伺いました。
 
一流アスリートはよく眠る? ──アスリートに学ぶ“眠りの力”
睡眠が運動能力、つまり身体のパフォーマンスに与える影響は、とても大きいものです。その事実に特に真剣に向き合っているのが、毎日の厳しいトレーニングで身体を酷使しているアスリートの方々でしょう。

一流アスリートを対象にしたある調査によると、日々の体調管理において「しっかりと眠ること」を重視していると答えた方は全体の約85%と第一位を占めました。その平均睡眠時間は8時間4分と、日本国民の平均睡眠時間(平日の場合7時間15分)を50分近く上回っています[*]。

一流アスリートほど、眠りに対する関心が高く、安眠のための努力に積極的です。なぜなら、必要な休息を取らず身体が十分に回復していない状態では、翌日どんなに厳しいトレーニングに臨んでも、慢性の疲労状態に陥るだけで、意欲もパフォーマンスも低下してしまうことをよく知っているからです。

*NHK放送文化研究所「2015年国民生活時間調査報告書」調べ


運動と睡眠の“正のサイクル”を取り入れよう
「よく体を動かした日は、普段よりぐっすり眠れた」、「よく眠れなかった夜の翌日は、頭も体もぼんやりして、いまいち力が発揮できなかった」そんな経験を持つ方は多いのではないでしょうか。運動と睡眠は、お互いに深い影響力を持っています。

①適度な運動が睡眠の質を高める
睡眠の質を高めるには、自律神経の活動モード「交感神経」と休息モード「副交感神経」がスムーズに交代できる生活習慣を持つことが大切です。朝にしっかりと目覚め、日中に適度に身体を動かせば、夜に休息を取るリズムを自然と作りやすくなり、交感神経と副交感神経がうまく切り替わります。

ある研究調査によると、運動習慣のある人は無い人に比べて睡眠時間が長く、成長ホルモンの分泌が活発になる「徐波睡眠」(=深いノンレム睡眠)が多い上、睡眠中の中途覚醒も少なく安定していることが分かっています。

身体を動かすことは不安を軽減させ、気分を改善するという精神面での効用もあります。過剰なほどの激しい運動は、身体的ストレスによってかえって睡眠の質を低下させると言われていますが、適度な運動は日々の眠りを深めてくれるのです。

②良質な睡眠が運動能力を高める
適度な運動が睡眠の質を高める一方で、良質な睡眠は「成長ホルモン」をはじめとする様々なホルモンのバランスを整え、身体の疲労回復と運動能力UPにも大きな役割を果たします。

スタンフォード大学が同大学バスケットボール部の選手たちを対象に行った研究では、長時間睡眠の習慣化によって、走るスピードやシュート率など、被験者の運動能力が総じて向上したとの実験結果が発表されました。

十分な睡眠によって身体のパフォーマンスが高まるのは、もちろんアスリートに限った話ではなく、一般の人々も本質的には同じです。私のクリニックでも、二週間ほど睡眠時間を1〜2時間長くしただけで、集中力や体力など様々な面でプラスの変化を感じる方が圧倒的に多いのです。

以上のように、適度な運動は眠りの質を高め、その快眠が翌日の身体能力を上げる──つまり、運動と睡眠は“正のサイクル”を持っています。日中の適度かつ習慣的な運動を楽しみながら、良質な睡眠で脳と体をしっかり休ませることをぜひ意識してみてください。

左:内田直教授│右:著書『「睡眠品質」革命』
 
 
[プロフィール]
医師/医学博士 内田直
(うちだ・すなお)
1983年滋賀医科大学卒業後、東京医科歯科大学神経精神医学教室に入局し、臨床精神医学・睡眠医学の研究を始める。カリフォルニア大学デービス校精神科睡眠医学教室への留学、東京都精神医学総合研究所睡眠障害研究部門長・副参事研究員を経て、早稲田大学にて睡眠医学研究に取り組む。大宮「スリープ・メンタルヘルス総合ケア すなおクリニック」院長として睡眠医療の現場に立ち、著書も数多い。早稲田大学名誉教授、東京医科歯科大学医学部非常勤講師。日本睡眠学会睡眠医療認定医。
 
2017.10.20